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「月収50万、貯金0円。5年付き合った『前借り星人』を私がクビにできない理由」

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「月収50万、貯金0円。5年付き合った『前借り星人』を私がクビにできない理由」

「社長、ちょっと……相談があるんですが」

給料日を待たずして、現場の影で彼がボソッと呟く。この言葉を聞くのは、この5年間で何度目だろうか。まただ。「前借り」である。

彼の月収は50万円を超えることもある。独身。普通に考えれば、貯金だってそれなりにあるはずだ。しかし、彼の通帳残高は常に「ほぼゼロ」。それどころか、次の仕事までのガソリン代すら怪しい時がある。

世間の経営コンサルタントなら「そんな奴、即刻クビにしろ」と言うだろう。正論だ。ぐうの音も出ない。だが、30年現場を這いつくばってきた私には、その一言で片付けられない「現場のリアル」と「経営者の計算」がある。

今日は、清掃業界の底なし沼――「前借り星人」と共生せざるを得ない、一人起業家の生存戦略を赤裸々に書こうと思う。

第1章:稼がせるほど「前借り」が増えるパラドックス

「腕がいいから、もっと稼がせてやりたい」 経営者なら誰しもそう思うものです。私も彼が現場をきっちりこなす姿を見て、単価を上げ、現場の数を増やしました。月収50万。この業界の個人事業主の右腕としては、決して悪くない数字です。

しかし、ここに恐ろしいパラドックス(逆説)が存在しました。 稼がせれば稼がせるほど、彼の「前借り」の頻度と額が増えていったのです。

お金の使い道は「投資」ではなく「消費」と「浪費」

彼は、お金の使い方というものを根本的に知りません。 50万円という大金が手に入っても、それを将来のために貯める、あるいは自分を磨くために使うという発想が1ミリもないのです。

彼の給料が消えていく先は、いつも決まっています。


  • ギャンブルと女: 給料日直後の数日間は、まるで大富豪。パチンコ屋の軍資金に消え、夜の街に消えていく。



  • コンビニの揚げ物とおやつ: 現場の合間、彼は必ずと言っていいほどコンビニに吸い込まれます。Lチキ、ファミチキ、ポテトチップスにコーラ。鉱物(好物)を両手に抱えて戻ってくる。一回数百円かもしれませんが、毎日繰り返せばバカにならない金額です。


「あればあるだけ使う」という病

彼にとっての財布は、**「今、使える金がいくら入っているか」**を示すだけの箱。 月収30万なら30万使い切り、月収50万なら50万使い切る。足りなくなれば「社長、少しだけ」と頭を下げればいいと思っている。

私たちが「この汚れはどうすれば落ちるか」と頭を捻っている間に、彼は「この5万をどう遊んで使い切るか」しか考えていないのです。

「稼がせることで彼を自立させよう」とした私の期待は、もろくも崩れ去りました。結局、彼のような人種にとって、増えた給料は「生活の安定」ではなく、「依存先への課金額」が増えただけに過ぎなかったのです。

 

世間の常識で言えば、前借りを繰り返すスタッフなんて即刻クビでしょう。しかし、清掃業界という荒波の中で30年舵を取ってきた私には、はっきりと見えている景色があります。

それは、「前借り星人」の向こう側には、もっと質の悪い「本物の怪物」たちがウジャウジャいるという現実です。

前借りなんて「マシ」だと思える、ヤバイ奴らのオンパレード

この業界、とにかく人が集まりません。そして、集まってきたとしても、その中身はまさにカオスです。

  • 「息を吐くように遅刻する奴」: 現場の入り時間は絶対。お客様を待たせるわけにはいきません。しかし、平気で1時間遅れ、電話も出ない。これに比べれば、前借りに来ても時間は守る「彼」は、神様に見えてきます。
  • 「チームワーク壊滅・ふてくされ野郎」: 掃除は連携プレイです。ちょっと注意しただけで不機嫌になり、舌打ちをし、現場の空気を氷点下にする。こういう人間が一人いるだけで、チーム全体の作業効率は半分以下になります。
  • 「指示を無視する自称プロ」: 自分のやり方に固執して、結局現場を汚して帰る。その尻拭いをする私の身にもなってほしい。

「扱いにくさ」は、金銭トラブルより高くつく

私の結論はシンプルです。**「扱いにくい奴が、経営者にとって一番のマイナス」**なのです。

「彼」は、お金に関してはだらしない。確かに月収50万をパチンコとコンビニの揚げ物に溶かして、情けない顔で前借りに来ます。 しかし、現場ではどうでしょう。

  • 不平不満を言わず、黙々と手を動かす。
  • 新人をいびることもなく、チームの輪を乱さない。
  • 「今日はここを重点的に」と言えば、その通りに仕上げる。

経営者として現場を回すとき、この「計算が立つ」という安心感は何物にも代えがたい。前借りの管理なんて、通帳にメモを書く数分間の手間だけです。それに対して、遅刻やふてくされた態度で現場の空気が壊れる損害は、金額に換算できないほど大きいのです。

清掃現場は、聖人君子が集まる場所ではありません。 だからこそ、「お金にはだらしないが、現場では素直」という彼を、私は今日もクビにできないのです。

「社長、本当にすみません。あと3万だけ……」 そう言って頭を下げる彼の姿を見ながら、私は心の中で計算をします。

彼を切って、新しい人間を探すコスト。 運良く見つかったとして、その新人が現場でふてくされたり、当日欠勤したりするリスク。 それらを天秤にかけたとき、答えはいつも同じになります。

「……分かった。その代わり、明日の現場もきっちり頼むぞ」

経営者にとっての「真のマイナス」とは何か?

多くの人は、お金にだらしないことを最大の欠点だと考えます。しかし、現場を預かる経営者の視点は違います。

私が一番恐れているのは、技術不足でも金銭トラブルでもありません。 「扱いにくさ」という名の、チームの腐敗です。

  • 時給に固執して新人をいびるベテラン。
  • 自分のやり方にこだわり、指示を聞かない頑固者。
  • ちょっとした注意で現場の空気を凍らせる「ふてくされ名人」。

彼らは、チーム全体の利益を削り取ります。そのマイナスは、前借りの事務手数料など比較にならないほど巨大です。 それに比べれば、「お金の使い方を知らない」だけの彼は、なんと扱いやすいことか。

掃除のプロとして、私はどんな頑固な油汚れも、数十年蓄積したウロコも落としてきました。 ですが、30年やって分かったことが一つだけあります。

**「人の性根と金銭感覚だけは、他人が掃除してやることはできない」**ということです。

月収50万稼ごうが貯金ゼロ。それは彼の人生の選択であり、彼が背負う業(ごう)です。私がそれを無理に変えようとすれば、こちらが疲弊して倒れてしまう。

だから私は、割り切ることにしました。 「扱いにくい奴」を排除し、「前向きに仕事に向き合える奴」と現場を守る。 彼が前向きに、素直にバケツを持って現場に立つ限り、私は彼の「前借り」という人生の汚れを、必要経費として受け入れ続けるつもりです。

チームの利益を守ること。それが、一人起業家として私がたどり着いた、泥臭くもリアルな「生存戦略」なのです。

「#清掃業」「#個人事業主」「#人手不足」「#前借り」

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